(ライター:hashidate amano)
小学校に上がる前の子供の医療費は、健康保険の制度では2割負担となっています。
しかし実際には、市区町村などが独自の補助を行っている場合がほとんどで、医療費が無料になることもあります。
また、本来は3割負担になる小学生以上の子供についても、やはり独自の補助が実施されている場合が多いのです。
この、子供の医療費補助制度は市区町村ごとなどで中身がかなり違っていて、「こんな制度です」と一口で解説するのは難しくなっています。
しかし、よくあるパターンは決まっていたりしますので、この記事ではその代表的な例をご紹介します。
お住まいの市区町村にどんな制度があるのか確かめて、「実は隣の町のほうがずっと充実した制度がある!」などと気付いていただく参考になればと思います。
ごきげんよう、では終われません
前回は健康保険の扶養の解説でしたが、生まれた赤ちゃんが病気をしたような時には、単に健康保険が使えるだけじゃなくて、医療費の補助制度みたいなのが色々あるっていう話でしたよね?
・年金博士
その通りじゃよ。詳細は、お住まいの市区町村役場におたずねください。
ええっ、いきなり役所に丸投げですか?
・年金博士
国がまともに制度を作らんもんじゃから、各都道府県や市区町村によって子供の医療費補助制度は百花繚乱、地方選挙の争点になったりもするから、各々競い合うように独自の制度を作っていて、わしにも把握できん。
そうなんですね……。じゃあ、今回はここまでということで。また次回。
・年金博士
短い回じゃったな、ではごきげんよう。
……ってこれで終わるわけに行かないでしょう?! ある程度パターンもあるでしょうから、よくありがちな制度でいいから解説してくださいよ
・年金博士
ノリツッコミとは、腕を上げたなファイヤ君。 しょうがないな。まあ、実はそもそも健康保険の制度自体に、子供の医療費減額の仕組みが一応入ってもおるからな。 国民健康保険料の均等割減額(第26話参照)とは別にな。
(じゃあ、最初からそこだけでも説明してくれれば良かったのに)
未就学児の一部負担金減額と、各自治体の独自補助について
2割負担になる未就学児
未就学児、つまり小学校に入る前の子供(=満6歳到達後の3月31日まで)については、通常3割負担となっている健康保険の自己負担(一部負担金)が、2割負担に引き下げられています。
国としてはこの措置をもって、「子供にかかる医療費を軽減して、子育てに力を入れています!」としているわけですが、たった1割引きで何をドヤ顔しとんねんというのが一般的な感覚というものでしょう。
各自治体による、独自の医療費助成制度
そこで、この2割負担部分、もしくは小学生どころか中学生や高校生に至るまでの3割負担部分についても、各市区町村によって見事なまでにさまざまな補助制度が設けられています。
(ここからは本当に複雑怪奇な解説になるので、読み飛ばしていただいても構いません)
子供の医療費補助制度を、大きくいくつかのグループに分けるとするとすれば、以下のような点での違いがあります。
① 両親(子育て世帯)の所得によって補助に差を設けるか、設けないか
例えば、横浜市の「小児医療費助成」では、1~2歳児については保護者の所得制限はなく、それ以上の年齢の子供については保護者の所得が一定基準未満であることが必要という仕組みになっています。
このように子供の年齢で差を設けている自治体もありますが、年齢に関係なく所得制限を設けている自治体、そもそも所得制限の全くない自治体もあり、様々な制度があります。
② 医療費の負担額の違い
2割(3割)負担を無料とするか、月額○○円を上限として補助するか(つまり自己負担が生じる)など、こちらも色々です。
例えば名古屋市の場合は、高校卒業相当の年齢までは、自己負担部分は全額補助、つまり無料で病院にかかれるという非常に充実した制度になっています(所得制限もないとのことです)。
これが福岡市の場合、入院は無料ですが、通院の場合は1医療機関当たり1か月500円の自己負担が生じます(所得制限なし)。
このように、入院か外来かで、負担の条件を変えている場合も非常に多くなっています。
③ 医療費助成の方法
一旦病院では2割(3割)負担を支払い、後から領収書を添付して申請することにより医療費の支給を受けるやり方と、受給証を病院の窓口で見せれば、最初から安い額で治療を受けられる方式、その両者の複合パターンなどが見られます。
例えば京都市の場合、入院と2歳までの外来の場合は受給証を提示すれば一医療機関当たり一か月200円まで(調剤薬局代は無料)。
3歳以上の外来は、受給証を提示すれば1医療機関当たり1か月1500円までとなっていますが、1か月間に受診した医療機関の自己負担額を合計して1500円以上となる場合は、1か月分の領収書を提出して申請すれば、1500円を超えた部分が還付される、という複雑な制度になっています。
医療費を計算して還付する事務量だけでも大変です。
財政状況の厳しい自治体ほど、負担が大きく、複雑な制度になる傾向があるようです。
……すみませんでした。 これは確かに、自分の住んでる町の役所に確認しないと何とも言えませんね。
・年金博士
じゃろう? どの制度が得か、比較することさえ難しい状況じゃ。 まあ基本的には財政に余裕があり、子育てに力を入れている街に住むのが正解じゃろうな。 子供の医療費についての制度が充実している市区町村なら、他の制度も力が入っている場合も多いじゃろう。
国が一律で制度を作るにしても、ここまでバラバラだと手がつけられないですね。どうやっても、良くなる場合と悪くなる場合がありますし。
・年金博士
全部無料、というのが一番簡単じゃが、国家財政を考えても難しいのじゃろうな。
かつては無料だった老人医療費(余談)
余談ながら、実は70歳以上の老人の医療費も昔は一律無料(老人医療費制度)だった時期がありました。
1980年代に入ってから、外来一箇月800円、入院1日400円上限(老人保健制度の初期)への引き上げなどの時期を経て、今の後期高齢者医療制度のような1割~3割負担という仕組みに引き上げられてきたのです。
(さらに遡ると、社会保険の健康保険については、被保険者本人は何歳でも1割負担という時代もありました)
その途中では、今の子供医療費と同じように各自治体で独自の助成制度が無数に存在した時期もありました。
今では、それらの制度のほとんどが消滅に向かっている状況です。超高齢化の進展で、莫大な額となった医療費を補助する余裕が、もう国にも自治体にもないというわけでしょう。
公的な医療保険制度が充実した我が国において、民間の医療保険など加入不要とする意見も、金融の専門家を中心にしばしば見受けられますが、過去の歴史を見れば、今のような制度が持続できる可能性は低いと言わざるを得ません。
「持病があっても入れます」的な保険は、当然保険事故発生率をかなり高めに見込んでいるので、保険料は割高です。
健康診断などで異常が見つかる前に、最低限の民間医療保険への加入も考えておくほうが良いでしょう(安い掛け捨ての保険がおすすめ)。
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