(ライター:hashidate amano)
とても複雑な、税金の仕組み。その中でも、個人にかかる住民税は健康保険などの社会保障を利用する際にも大きく影響します。
「税金が増えたうえに、医療費まで増えちゃったよ(泣)」なんてこともあり得るのです。
この記事では、個人住民税のごく基本的な内容について解説します。
基本を知っているだけでも、税金関係の書類を出したりするときに、役に立つことがあるかもしれませんね。
色んな制度に影響する住民税額
博士、この前はありがとうございました。母の手術、無事に終わりました。 良性のポリープ取るだけでも結構医療費かかったみたいで、前回(第8話)教えていただいた高額療養費の制度が役に立ちました。
・年金博士
そうか、それは良かった。 で、わしより若いお母上(45歳・現在独身)は、私のことを何か言っておられたかね?
ああ、申し訳ありません。まだ母には、博士に手続きを教えていただいたってこと、話してないんですよ。
・年金博士
ひどいじゃないかファイヤ君! ちゃんと伝えてくれと言ったのに! 親切で素敵な博士だって!
言います、今度ちゃんと言いますから。 あの、それで前回の高額療養費のお話にも関連するんですが、社会保険というか社会保障の制度って、何かと住民税の額とかが影響しますよね。 ぜひ、住民税の基本を解説していただければと思うのですが……。
・年金博士
確かに、高額療養費や食事療養費など、住民税がかかるかどうかで大きな差が出て来ることがある。 よし、ここは一つ、教えてやるとしようか。 その代わり、わしのことを確実にちゃんとお母さまにも伝えてくれよ。
前年の収入で額が決まる「個人住民税」
「個人住民税」の概要
我々一般市民が支払う「住民税」(正確には「個人住民税」)とは、都道府県及び市区町村に払う地方税の一種で、国の税金である「所得税」とかなり似通った部分の多い税金です。
実際の徴収事務は、都道府県民税の部分も合わせて、市区町村が行っています。
その計算のもとになるのは、前年1年間(1月から12月)の間にもらった給与や年金、個人事業の売り上げなどの収入です(分離課税と言って、退職金など、この収入には含まれないものもある)。
給与収入の場合は会社から、年金収入の場合は日本年金機構から、個人事業の場合は確定申告先の税務署から、それぞれの情報が市区町村の課税部門に集まり(直接市区町村に収入を申告するという場合もある)、6月頃までに住民税の額を計算して、住民に通知することになっています。
住民税の計算に当たっては、まずは元々の収入から必要経費相当額を引いて「所得額※」を算出し、さらにそこから配偶者控除や医療費の控除などを引いて「課税標準額(課税総所得額)」を算出します。
住民税非課税だとメリットが多い、各種社会保障制度
この「所得額」が、扶養親族の数などによって決められた最低額(障害者やひとり親世帯の特例あり)を下回ると住民税はかからないことになっています(住民税非課税)。
これ以外にも、正確には「非課税」ではありませんが、各種の減免制度などによって税額が0円となることがあり、各種社会保障制度側では、これも「非課税」と同等に扱う場合が多いです。
健康保険制度では、「非課税」の場合は「低所得者」として取り扱われることになり、医療費や食事代の負担額が下がります。大きなメリットがあると言えます。
確定申告や、前年の終わりに会社に提出する「年末調整」の内容、同じく前年に年金機構に提出した「扶養親族等申告書」の内容が誤っていたせいで「非課税」の扱いを受けられず(例えば「障害」の欄に印をするのが漏れたなど)、医療費などの負担が上がってしまうということがしばしば起きているため、注意が必要です。
※ 「所得額」と言っても、本当は「総所得金額」「合計所得金額」「総所得金額等の合計額」など、いくつかの種類があり、それぞれ譲渡所得や損失などの算入方法が細かく異なります。 各種社会保障制度には、「所得」によってランクが判定されるものが数多くありますが、その場合にどの「所得」を使うかは、結構ばらばら(あるいは、どの種類にも入らない独自計算の「所得」を使う場合もある)で、専門家でさえ間違う場合もあります。 国民健康保険などの高額療養費のランク判定に使う所得も、独自の「旧ただし書き所得」というものですが、これも先ほどの三つの所得のいずれとも細かく違っています。 (参考:東京都杉並区の解説サイト ※当然アフィリエイトではありません)さらに、自治体独自の福祉制度の場合は条例の書き方があいまいで、極端な話、そもそも何が正しいのかよくわからないケースさえあるほどです。指定されたページ、またはファイルは見つかりませんでした。|杉並区
うわ、最後の「※」がすごいですね。専門家でも間違うんじゃ、こんなの一般市民じゃ絶対分からないですよね。
・年金博士
知り合いの税理士でさえ、社会保障独自の「所得」はさすがにわけわからん、と言ってたくらいじゃからな。 まあ、とりあえずそこまでは考えんでもよろしい。 基本は、前年の収入から色々控除して所得額が決まり、さらにそれを基にして住民税額が決まる、と理解しておけばよい。 そこに影響するのが年末調整や、年金の「扶養親族等申告書」の内容だ、ということを押さえておいて欲しい。
年末調整の書類って細かくて面倒なイメージですけど、印するのを一つ忘れるだけで全然変わってきたりするんですね。
・年金博士
長期で入院するような場合は、住民税課税と非課税では高額療養費の基準が大きく違うから、医療費が全く変わって来る。 一年間だと50万円以上違う、などということにもなりかねないんじゃ。
うーむ、保険や年金の制度って、本当に奥が深いですね……。
税関係の書類は、必ず慎重に確認してから出そう
当たり前の話のようですが、税金に影響する書類は、決していい加減に書いてはいけません。税金本体に加えて、他の制度の負担にも跳ね返ることになるので、負担が劇的に増加することもあるからです。
確定申告を自分で出すような人はそれなりに勉強をすることが多いと思いますが、給与や年金収入だけで、職場での年末調整書類を出すだけだったり、年金機構から送られてきた申告書を返送するだけの場合は、良くわからないままにえいやと提出しがちなので、注意が必要です。
厄介なのが、税制度にそこそこ詳しい人が、節税のためにと思ってやった申告が、社会保障や福祉制度関係ではむしろ損になるようなケースさえあることですが(特に、株式などの取引をしている人)、これはかなり上級向けの内容になって来るので、今回は省略します。
とにかく、切っても切れないのが、社会保障と税金の関係です。
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