(ライター:hashidate amano)
「国民健康保険」と「国民年金」、どちらも高い保険料を役所に支払うというところがよく似ています。
でも、その役割や支払う先など、仕組みは大きく違っているのです。
うっかりごっちゃにしてしまうと、思わぬ落とし穴が待っているかも知れません。
この記事では、二つの保険料を勘違いして支払ってしまった場合にどんなことが起きるかを、ストーリー形式で解説します。
なお、このお話はフィクションであって、こんな恐ろしい市役所職員は実在しません、多分。
「国民」健康保険と「国民」年金は似たような制度」
「健康保険」と「年金」ってごっちゃになってる人も結構多いんですよね。 どちらも役所から似たような払込書が届きますし、自分が払ったのがどっちか良く分からなくなってたり。
・年金博士
色々ある社会保障の制度の中でも、健康保険と年金は親戚同士のような関係じゃからな。 しかし、その役割は全く違う。今回はその、基本中の基本をいつものストーリー形式で解説しよう。
ちゃんと真面目な内容なんですよね? 話の内容の80%がギャグとかってことないですよね? 前回があれでしたからねえ……。
・年金博士
ははは、そんなわけないさ。100%真面目な解説じゃから、安心したまえよ(フラグ)
#001 ギリギリ間に合った保険料
夏も近づくある日の午後。都内の閑静な住宅地の下り坂を、ブルーのポニーテールをなびかせて、全力で駆け下りていく若い女性の姿がありました。
彼女の名は小鳥遊凛音。どこにでもいる、普通の女子大生です。この4月にめでたく20歳になったばかり。
フリマサイトで買った500円のおしゃれな服を着た凛音はなぜ、全力でダッシュしているのでしょうか?
いっけなーい、滞納、滞納。今日が期限なのに、うっかり健康保険料払うの忘れてた! 急いでコンビニ行かないと!
ところが、わかりやすいセリフで事態を解説する彼女の目の前に、おじいさんの乗ったシニアカーが狙いすましたようにのろのろと現れました。
グェーッ。あれにぶつかったら私の人生詰むわ。止まれ、私の脚!
彼女は死力を振り絞って両足をまっすぐ伸ばし、スニーカーの底を思い切り路面にこすりつけました。上がる土煙。ゴムの焼ける匂い。
ドリフトを決めるように、急カーブを描いてターンした彼女は、ぎりぎりでシニアカーを回避して、路面に派手にぶっ倒れました。右手に持っていた役所からの郵便物が、辺りにばら撒かれます。
(特別出演)
あれは伝説の慣性ドリフト! いいものを見せてもらったわい。
シニアカーのおじいさんは、感心しながらそのままのろのろと走り去って行きます。
てゆうか、普通声かけるとかなんとかしない? 目の前で女の子がぶっ倒れてるのに……。 まあ、最悪の事態は回避したわ。あとは保険料よ、保険料。
散らばった封筒を集めて、彼女は再びコンビニへ向かいます。幸い、運動神経抜群の彼女は、けが一つしていません(ただし、服はボロボロ)。
タイミングの悪いことに、コンビニのレジは激込みで、行列ができていました。もたもたしていては、怒られてしまいそうです。
ええと、どれだっけ。「国民……」これだ! てゆうか1万6千円って高っ!
色々ありましたが、一人で突っ込みを入れながらも、彼女は無事に保険料を支払うことができたのでした。
すごい分かりやすい伏線が張られた気がしますが……。マーカーまで引いてありますし。
・年金博士
さあ、ここからどんな展開が待っておるかな?
#002 役所からの恐るべき手紙、「そんなバカな!」と凛音は叫ぶ。
無事に保険料を払い終えて二週間後、彼女のスマホに着信がありました。
なにこれ、見たことない番号だし。どうせ勧誘とかだ、無視無視。
その後ももう一度、同じ番号からの電話がありましたが、彼女はまた無視。
そしてさらに数日後の朝、今度は役所からの手紙が届きました。
えー、また役所から郵便来てるじゃない。こういうの、メールじゃダメなわけ?
法律的にはともかく、現代人としては当然の感想をつぶやきながら、彼女はべりべりと封筒を開きます。
しかし、その封筒に入っていたのは、恐るべき内容の手紙でした。
何よこれ、督促状ってどういうこと? 保険証が使えなくなる? ちゃんと保険料払ったじゃない、あのバカ役所! すぐに文句言いに行かなくちゃ。
行動力が自慢の彼女は、さっそく市役所へと向かいます。ちゃんと、この前払った保険料の領収書も持ってきました。役所と勝負する以上、準備は完璧です。
窓口に出てきた、かなり年上の職員に向かって、彼女はさっそく文句を言いました。
凛音 ちょっと、ちょっと。この手紙どういうことよ! 私ちゃんと期限までに保険料払ったんだからね。見なさい、この領収書を!(ドーン)
おやおや、それは申し訳ないですねえ。行き違いと言うこともありますから。
老婦人職員は、眼鏡をずらしながら、彼女が突き付けた領収書に目を遣りました。
おやおや、これは全然違うねえ……。お嬢さんが払ったのは、「国民年金保険料」じゃないかね。未払いになっているのは「国民健康保険料」だよ。これじゃ困るねえ……。
凛音の目が、点になりました。確かに領収書には、「国民年金」と書いてあります。うっかり間違えて、違う保険料を払ってしまったのでした。
国民年金の保険料は、学生の免除を受けていて払う必要がないのです。
あの……済みません。間違って違うほう払っちゃったみたいで……。国民年金の保険料を、国民健康保険のほうに移し替え、とかできないでしょうか?
面白いことを言う子だねえ……。国民年金は国の年金機構に払うお金で、うちの市役所に入るわけじゃないんだよ。残念だねえ、こっちはこっちで払ってもらわなきゃね。
老婦人職員の眼鏡がギラリ、と光ります。これは怖い。
隣の窓口にいた「国民年金」担当の人が調べてくれて、学生特例で支払い不要のはずだった国民年金の保険料は、後日年金機構から返してもらえることが分かりました。
でも今は、とりあえず「国民健康保険料」を払うしかありません。新しいオレンジのワンピースを買うはずだったお金で、彼女は泣きながら滞納分を支払いました。
しくしく……。なんでこんな似た名前にするのよ……。どう違うのかもよくわかんないし……。
「国民健康保険料」は病院にかかる時の保険証をもらうためのお金さ。学生さんであっても保険証は使うんだから、ちゃんと払ってもらわないとね。 「国民年金」は老後とか障害になったときにお金をもらう仕組みで、実際にお金をもらうまでは時間がかかることがあるから、学生さんには支払い猶予の仕組みがあるのさ。 今からあんたの名前は、「千尋」じゃなく「千」だよ。
あの、わたし「凛音」なので……。 (役所のお金を払うときは、気を付けよう。絶対に騙されないようにしないと) ※騙されてません
やっぱりそうなりましたか……。
・年金博士
実際には、健康保険は親元の扶養などに入っている場合も多いから、こんな悲劇が起きることは少ないがな。 とにかく、坂道を駆け下りるときは気を付けんといかん。
気を付けるのって、そっちですか?!
今回は、「ICON FACTORY」さまのイラストを使わせていただきました。 (https://icon-project.jp/index.html)
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