(ライター:hashidate amano)
お子さんの出産時には、原則として健康保険は使えず、自費負担となっています(帝王切開などの場合の手術費用などには健康保険が適用される)。
その代わりに、出産したお母さんには、生まれたお子さんの数に応じた「出産育児一時金」が支給されることになっています。
現金として振り込んでもらうこともできますが、現在では病院に直接支払ってもらい、出産費用をその分少なくするというやり方が主流です。
この記事では、その「出産育児一時金」の仕組みについて詳しく解説しています。
出産を控えた方やそのご家族にはぜひ読んでいただいて、安心して出産の日を迎えていただきたいと思います。
去る者あれば、来たる者あり
博士、友人に子供が生まれました。写真を送ってくれたんですが、これがかわいくて……。男の子か女の子か、写真見ても見分けつかないくらいで。
・年金博士
それはめでたいな。わしら去る者があれば、来たる者もあり、か。 (注:博士はまだアラフィフです) ……しかし、なぜ泣いておる? そこまで嬉しいのか?
その、出産した友人というのが、昔の彼女でして……。 二人で過ごしたあの夏は、もう二度と帰って来ないんだなあ、と思うと。嬉しいような、悲しいような……。
・年金博士
バカ者! 何と未練がましいことを言うのじゃ。
すみません……。情けないです。
・年金博士
大体、今時離婚など珍しくない。彼女が別れるチャンスを狙って、子供ごと引き取ればよい。 それが無理なら、その子供が育つのを待つという手もあるぞ。
ええ……え? そういう方向性で? それはちょっと……。 ところで、前回は出産時の保険料免除みたいな話でしたけど、逆に社会保険とかからの補助みたいなものもあるんですよね? (話の方向をまともな方向へ変える)
・年金博士
あるよ。 では、下らん与太話はこの辺にして、解説を始めるとするかね。
(僕の大切な想い出が「下らん与太話」のネタに……)
出産数×42万円(最大)の「出産育児一時金」
出産育児一時金制度
国民健康保険でも、社会保険の健康保険(被用者保険)でも、被保険者(もちろん被扶養者も含む)が出産した場合の給付金という制度があり、どちらも「出産育児一時金」という名称になっています。
(被扶養者は「家族出産育児金」が正式名称ですが、気にしなくてOK)
出産(法的には「分娩」)時の入院代などは、実は基本的に健康保険の適用対象にはなりません。健康保険はあくまで、「治療」のための制度だからです。
その代わりに設けられているのがこの「出産育児一時金」の制度で、多くの健康保険では出産一児当たり42万円となっています。双子ちゃんの場合は、42万円×2で84万円が給付されるわけです。
実際に出産にかかった費用とは無関係に、一律の額となっている点が特徴です。出産費用がどんなに高くても安くても、42万円となります。
(市町村や健康保険組合などによっては、独自に増額している場合があり、第三子以降の出産については上乗せ額を設けている場合もあります)。
産科医療補償制度との関連
・産科医療補償制度との関連
ちなみに、この42万円のうち1万2千円は「産科医療補償制度※」という制度の保険料に相当する額ということになっているため、この制度に加入していない病院での出産では支給額から1万2千円が減額されることになっています。
しかし、現実的には99.9%の産婦人科病院が加入しているため(2022年4月現在)、減額支給のケースはごくまれでしょう。
減額支給の実例としては、海外の病院で出産した場合です。
出産育児一時金自体は受け取れる(申請には現地の医師や役所の証明と、その翻訳の添付が必要)のですが、海外の病院には産科医療補償制度が適用されていないので、減額となります。
※「産科医療保障制度」とは、出産時の万一の事故によって、お子さまが重度脳性麻痺になられた場合に保険金が支払われるという制度です。
42万円って大きいですね! いくら保険が効かないとは言っても、それだけの額を受け取れれば、出産費用は大体まかなえるんじゃないですか?
・年金博士
それが、案外そうでもないんじゃ。近年、産婦人科の減少などで出産費用は上がる傾向にあるし、そもそも食事や部屋などの豪華さを競う産婦人科病院もあるので、42万円では不足することが多いくらいなんじゃ。
そうか、子供を産むって大変なんですね。 僕が付いてさえいれば、そんな程度の額なんて「オレンジジュース原液先物」の利益で簡単にまかなえたのに……。
・年金博士
えらいマニアックな先物取引に手を出しとるんじゃな……。
出産育児一時金を病院が代わりに受け取る制度も
直接支払制度による、負担の軽減
博士の説明にもあった通り、出産費用はどんどん上昇する傾向にあり、一時金を申請して受け取るまでの間、費用を立て替えるのもなかなか大変です。
そこで現在では、「直接支払制度」を利用するケースが大半となっています。
この制度は、事前に産科医院に申し込みを行い、出産育児一時金の42万円が健康保険から病院に直接支払われる前提で、それでも不足する額のみを病院に支払えば済む、という仕組みです。
出産費用が45万円かかった場合、42万円との差額となる3万円だけの支払いになるわけです。
逆に、出産費用が40万円で済めば、加入している健康保険に申請すれば、残額の2万円を支払ってもらうこともできます。
この制度のおかげで、費用の負担がかなり軽減されました。
(先ほど述べた、海外での出産などの場合は、この直接支払制度は利用できませんので、立て替え払いとなります)
加入する健康保険が変更になる場合には注意(少し上級者向け)
なお、出産直前に加入する健康保険が変更になった場合(配偶者の転職や、住民票を実家に移したなど)、病院にしっかり伝えておかないと、変更前の健康保険から誤って病院への直接支払いが行われてしまう場合があり、その場合は市町村や健康保険組合などへの返還額(42万円もの額を一旦返すことになる)が生じますので、気を付けましょう。
ただし、社会保険の健康保険から、退職により国民健康保険に変更になった場合は、母親本人が1年以上働いて加入していた(&退職後6か月以内に出産した)などの条件を満たせば「資格喪失後継続給付」という制度が使える場合があります。
この場合、前の健康保険から引き続き出産育児一時金の直接払いが可能な場合があるので(新たに加入した国保からもらうか、前の健保からもらうか、どちらか選択できる)、確認しておくとよいでしょう。
・年金博士
ちなみに、出産が全て健康保険の適用外になるわけではない。いわゆる帝王切開の場合などは治療の一種とみなして、手術代など一部の費用が保険適用になる。 あと、これは健康保険とは関係ないが、福祉施策として「助産制度」という制度があって、非課税世帯が出産する場合などは、国からの補助によって病院に支払う費用が約8万円まで減額される。この場合も、出産育児一時金はちゃんと42万円支給されるから、利用するメリットは大きい。
博士、さすがにお詳しいですねえ……。
・年金博士
なお、前回(産前産後の保険料免除)の解説でも少し触れているが、出産するお母さん本人が働いていて、社会保険の健康保険(被用者保険)に加入している場合は、出産のために仕事を休んで給料の出なかった分を補助する「出産手当金」というものもある。 これはまた、別の機会に説明するつもりじゃ。 嫁が出産する時のために、わしもちゃんと研究してあるのじゃよ。
あれ? 奥さんがおられたんですね。
・年金博士
当然じゃ。小鳥遊雪歩(注:人気のVTuberらしい)はわしの嫁、ただの推しとはわけが違う。
(二次元の世界にも、出産育児一時金はあるんだろうか……)
出産に至らなかった場合について(補足)
悲しいことですが、流産や死産などの事情により、残念ながらお子様を喪ってしまった場合でも、一定の場合には出産育児一時金の対象となります。
具体的には、妊娠四か月(85日)以上の流産などの場合が対象で、妊娠22週未満の場合については産科医療補償制度が適用されないために、40万8千円の支給となります。
(なお、この流産などの中には、いわゆる人工流産(中絶)も含まれます。)
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