(ライター:hashidate amano)
健康保険や厚生年金などの社会保険料は、4月~6月分の給与額から算出するのが基本です。
そのため、残業がその時期に集中してしまうと、次の1年間に支払う社会保険料がずっと高いままになってしまうことがあるのです。
それを知らないと、「何だか給料下がってない?」と首を傾げることになってしまいます。
中には勘違いして、給料を減らされたと会社に怒る人もいるかも知れません。
この記事では、社会保険料がどのように決まるかの基本と対策を、ストーリー形式で解説します(ギャグ多め注意)。
今回はおじさんサラリーマンのお話です
・年金博士
今回はショートストーリー形式での解説、その2じゃよ。
あの、博士の妄想みたいなやつですよね。後輩の女子大生に思いを寄せられる雑栗(ザツクリ)先輩、とかいう。
・年金博士
ははは、妄想なものかね。わかりやすい話にするために、ああいう展開にしたまでじゃよ。 今回の事例は、会社のために頑張って残業をしたら、結局給料の額が減ってしまったという、気の毒なおじさんサラリーマンの話じゃ。
とにかく、真面目な解説をお願いしますよ。おじさんが主人公なら大丈夫だとは思いますけど。
#001 人手が足りないまま、業務繁忙期を迎えてしまった5月
中堅商社・アール商会の各部門は、いつでも大忙しです。中でも、この5月に決算業務のピークを迎える経理部は、目も回るような忙しさになっていました。
今年は特に、管理部門のリストラで経理部の社員も減らされてしまっていたため、例年に比べても一段と大変な状況。業務時間内に終わらない仕事は、残業してでも処理しなければ、株主総会までに間に合いません。
ベテラン経理マンとして頼られる存在のN主任は、そんな中でも愚痴一つ言わずに、全力で業務を片付けていました。
残業続きで死にそうな顔になっている若手がいたら、
無理するなよ、今日はこのくらいにしておきな。代わりに片づけておいてやる。 俺か? 俺なら大丈夫だ、ちゃんとやってみせるさ
と先に帰らせる、漢気のある先輩社員ぶりです。
みんなの頑張りもあって、無事に総会も乗り切り、繁忙期は去りました。
ねぎらいに来た執行役員にN主任は、
乗り切れたからこれでよい、とは思わないでください。必要な人員を確保するのがあなた方の仕事です
と説教し、増員を約束させました。
経理部員一同が、N主任をほめたたえたのは言うまでもありません。
#002 なのに減ってしまったお給料、正義の怒りに燃えるN主任
そうして、9月の給料日がやってきました。残業代がなくなったので、今月の給料は繁忙期前の額に戻っている、そのはずです。ところが、給与明細書を見たN主任は、首をかしげました。
おや? 振込額がずいぶん少なくなっているぞ。まさか……。
彼は、天井をにらみつけます。その彼方、本社ビルの最上階には、役員室があるのです。
あの役員、嫌がらせに俺の給与をカットしやがったのか。ということは、もしかして。
N主任は、周りの後輩社員たちにも、給料の振込額が減っていないか、訊ねてみました。
わたしもです。去年のお給料よりも、額が減ってしまいました。
やはりそうか。おのれ、あの執行役員め。貴様がそのつもりなら、こっちにも考えがある。
N主任の闘志に火が付きました。彼は、執行役員をぶん殴るためにちょうど良さそうな丸太を探し始めました。
ちょっと、これダメです! テロ行為はダメ、絶対。
・年金博士
あくまで実在の人物や団体等とは関係のないフィクションじゃよ。 まあ、心配いらん。すべて誤解であったことに、N主任はすぐに気が付いたのじゃ。
#003 明らかになった真実 ~4月から6月に残業すると社会保険料が増える~
ララ美君、安心してくれ。この正義の丸太がうなりを上げて、あの執行役員どもに天誅を下してやる。これで、君たちの給料は元通りだよ。
ええええっ。丸太なんて(武器に使うには重すぎて)駄目ですよ! 実は、社会保険のことに詳しいイケメンの先輩が、来てくれているんです。お給料が減った原因がわかるかも、って。
先輩
こんにちは、ララ美さんの先輩の雑栗です。
「ザツクリ博士先輩」出てきたよおい!(突っ込まずにいられない)
・年金博士
ここからが真面目な説明なんじゃから、静かに聞いていたまえ。
ララ美さんに聞きましたが、この経理部では、今年の5月ごろは特に残業が多かったとか。 だとすると、健康保険や厚生年金の社会保険料が増えてしまっているはずなのです。
ですが、今はもう9月です。そんな何か月も前の残業代が、今になって給料に影響するのですか? そんなはずはないですよ、やはり役員を丸太で……。
でもN主任、このお給料の明細書を見ると、給与の支払い額は変わっていないのに、引かれている「社会保険料合計」は9月からずいぶん増えているのです。
やはり! 実は社会保険料は、4月~6月の給料をもとに決まるのです。しかも、その影響は数か月後の9月から翌年の8月まで続く、そういう仕組みなのです! (ビシッ、とララ美の給与明細書を指さす)
社会保険料の算出にはいくつかのやり方がありますが、最もポピュラーなのが、4月~6月の間の給与額で決定する「定時決定」という方式です。
つまり、4月~6月の間の給与をもとに、9月分からの1年間の社会保険料が決まる(社会保険料の年度は9月~8月になっています)、ざっくり言えばそのように考えてよいと思います(会社に採用された時期や、算定期間内の勤務日数などによっては例外もあります)。
#004 社会保険料減額の必殺技「保険者算定」。よみがえったお給料
そんな……。では、この丸太には何の意味もなかったというのか。 (膝から崩れ落ちる)
安心してください。こんなこともあろうかと、社会保険料を減額する必殺技を、厚生労働省も用意しています。 これは、丸太よりも強力なのですよ。
仕事の性質上、毎年必ず4月~6月の時期が業務繁忙期になってしまうなら、救済措置が使えます。
「保険者算定」という制度で、年間の平均の給料とこの4月~6月の給料の差が大きい場合には、年間の平均のほうを使って社会保険料を計算してもらうことができるのです。
(社会保険料が下がると厚生年金をもらう額が下がることもあるので、社員の同意が必要)
おお、まさに我々にうってつけの制度だ! さっそくこの丸太を持って、厚生労働省へ乗り込もう!
厚生労働省に行かなくても、うちの総務に相談すれば大丈夫みたいですよ。すぐに行きましょう!(丸太もいらない) それにしても、ザツクリ先輩ってやっぱり素敵……。
・年金博士
またもや、わし、じゃなかったザツクリ先輩が大活躍じゃったな。 こうして、ララ美さんたちは、社会保険料を以前と同じくらいにまで下げてもらえたそうじゃよ。
(今後も毎回出てくるのかな、ザツクリ先輩……)
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