(ライター:hashidate amano)
決して安いとは言えない国民年金の保険料。でも、単に未払いにしてしまえば、最悪の場合は年金がもらえなくなる可能性まであります。
そんな、支払いが難しい場合のために、ちゃんと救済措置が用意されています。「免除」や「納付猶予」、「学生納付特例」という制度です。
この記事では、その免除制度などについて、詳しい損得の計算も含めて解説します。国民年金の保険料が支払えずに困っている方は、ぜひお読みください。未納を放置してしまって、いつか後悔するのを防ぐことができます。
支払った場合に比べると、年金の受給額が減ってしまうこともあるのですが、上手に使えば非常にお得な制度です。
保険料は払い忘れのない口座振替で、のはずだが
・年金博士
(通帳を見ながら) ふう、今月もどうにか、国民年金保険料を支払うことが出来た。 毎日の、血のにじむような節約生活で捻出した、貴重な金じゃからな。わしの老後を必ず助けてくれ、国民年金よ。
博士は口座引き落としで国民年金の保険料を支払っているんですよね。 それなら、そんなに心配しなくても、払い忘れとかは起きないんじゃないですか? (節約生活という割には、いつも無駄に高いハンバーガーばかり頼んでるような……。というか、やっぱり紙の通帳なんだ、今時)
・年金博士
いくら口座引き落としと言っても、残高が無ければ支払うことは出来んからな。
え? じゃあ、その口座の残高って、16,000円少しの保険料を支払ったらゼロになるようなぎりぎりの額しか入ってないんですか?
・年金博士
はいそうですが、それが何か? 16,000円って実は案外大金だし、いつも口座にそんな余裕の額が入ってる人ばかりじゃないって思うし、銀行にお金預けてても利子なんかつかないし(以下略)
利子についてはネット銀行の話をした記憶がありますけど……。 まあ確かに、16,000円を超える保険料を毎月払うのって、実は結構大変だったりしますよね。 保険料を安くする制度って、何かないんですか?
・年金博士
うむ。実は大金じゃからな(しつこい)。 では、今回は保険料の免除制度について説明しよう。
4種類ある、国民年金保険料の免除・納付猶予制度
ようやく本題です。
国民年金保険料の納付が困難な場合の救済制度はいくつか種類があり、大きく分けて以下の通りとなっています。
1 全額免除制度
2 部分免除制度
3 納付猶予制度
4 学生納付特例制度
全額免除と部分免除(多段階免除制度)
1と2は、「多段階免除制度」と呼ばれるもので、免除を受けようとする年度の前年一年間の収入(所得)に応じて免除される最大の割合が決まります。
段階としては、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4つがあり、被保険者本人と配偶者(夫、妻)、住民票上の世帯主の所得に応じて、該当する段階が変わります。
免除額が大きい=支払額が安いほど、将来受け取る年金額の増え方も小さくなるのですが、たとえ全額免除で支払額ゼロでも、保険料の半額は支払ったものとして計算してもらえます。
極端な話、国民年金の最大加入期間である20歳から60歳までの最大40年、480か月間が全て全額免除だった場合でも、20年間(240か月分)払った人と同額の年金が受給できるというわけです。
(これはあくまでもこれから先の話です。法改正された2009年3月以前の全額免除期間は、3分の1だけ支払ったと換算されます)
考えようによっては、これも大変お得な制度とも言えますが、額そのものはもちろん半分になってしまいますし、免除を受けるための所得条件もクリアしなければならないので、やはり失業時などの短期間に限って利用するというのが本来の形だろうと思います。
免除制度を利用するには基本的に申請が必要ですので、保険料を払うのが難しい場合は、すぐに役場や年金機構に相談しましょう。年1回、7月に更新手続きも必要ですが、条件に当てはまれば自動継続という仕組みもあります。
(実際の申請方法などは、次回の第14話で解説します)
でも博士、失業で今はお金がないとしても、前年の収入で審査されるなら、通らない場合も出て来ちゃいますよね。
・年金博士
それが、大丈夫なんじゃ。失業や廃業して収入がない場合は、ハローワークに提出する離職票(失業保険のない公務員は退職辞令)や税務署に出す廃業届などを申請時に持って行くと、所得がゼロ円という扱いで審査してもらえるんじゃよ。 (失業特例免除。配偶者や世帯主が失業した場合も、その人の離職票などがあれば所得ゼロ扱い)
結構、細かく救済措置があるんですね。この3番の「猶予制度」というのは何ですか? 「猶予」ということは、後で払わないといけないってことですか?
・年金博士
この「納付猶予制度」は免除制度と違って、世帯主の所得が判定に入らない(本人と、配偶者の所得だけで判定)んじゃ。 その代わり、承認されても、年金の受給額は全く増えないがな。
えええ? そんな制度、何か意味があるんですか?
・年金博士
もちろん、ちゃんと意味はあるぞ。少し解説してみよう。
保険料を払わなくても未納にならない、納付猶予制度のメリット
50歳まで利用できるこの「納付猶予制度」は、博士が言う通り、承認されても年金の受給額は全く増えません。
かと言って、後から支払わないといけない、ということにもなっていません。払わなければ、結局年金額は少なくなるだけということです。
そんな制度にどんな意味があるか、ということですが、まずは納付猶予の承認を受けておくと、正式に堂々と未払いにできる、というメリットがあります。
第11話でも解説しましたが、保険料を未納のまま放置しておくと,最悪財産の差し押さえまであり得ますが、猶予期間はあくまで未払いではないので、そのような事態にはならないのです。
また、老後の年金(老齢基礎年金)の受給資格は、保険料を原則最低10年は支払わないともらえないのですが(この点も、またいずれ詳しく解説します)、この猶予期間はその10年間に算入してもらえます。
仮に9年間支払って力尽きた場合、最後の1年を猶予期間にしておけば、合計10年となって老齢年金の受給資格が出来るので9年分を無駄にせずにすむわけです。
あと、猶予された保険料については、10年以内であれば後から支払うことが出来ます(追納制度。次回で詳しく解説します)。
単なる未納であれば約2年分しか遡っては支払えないので、ここは大きく違います。
これが「納付猶予制度」というネーミングの由来かも知れませんね。
・年金博士
他にも、障害年金や遺族年金の受給にもメリットがあるが、そこもまた別にそれぞれ解説しよう。
なるほど、分かりました。 最後に、4の「学生特例制度」は、もう僕らには何の関係ないですが(遠い目をする)、要するに学生なら保険料を免除されるってことですよね。ひと月16,000円も払えるわけないし。
・年金博士
その通りじゃが、学生特例制度は免除ではなく、納付猶予制度とほぼ同じで、年金額は増えんのじゃ。メリットも、納付猶予と同じじゃ。 違うのは、言うまでもなく学生だというのが条件なのと、所得の判定も本人の所得だけで、しかも所得額の制限も緩いということじゃ。やはり、学生は優遇されておるな。 ちなみに、年齢の制限はないぞ。わしらでも、今から大学に入って、モテモテでウハウハということも可能なんじゃ!
(また話の趣旨をはき違えている……) 詳しくは第16話で解説します!
全額免除はどれくらいお得なのか(※上級者向けの補足)
全額免除で浮いた保険料を貯金に回す、という考え方
先ほども解説した通り、全額免除の場合でも、保険料の半分は支払ったという扱いで換算されて、年金を受給することが出来ます。
ならば、可能な限り全額免除を受けて、浮いた保険料相当分を貯金に回せばどうなるでしょうか。
(例)国民年金保険料を一か月分支払った場合と、全額免除を受けた場合の比較
保険料額 ①普通に支払った場合 16,590円
(2022年度額)
②全額免除の場合 0円
→浮いた16,590を貯金へ
支払った場合と全額免除の場合の老齢基礎年金増加額を比較
①普通に支払った場合 一ヶ月分保険料を払うと、受給額は年間1,620円増えます。(「1,620円」については第11話で解説しています)
②全額免除の場合 一か月の免除で1,620円 ÷ 2 = 年間810円増加します。
元が取れる年数 16,590 ÷ 810 = 20.48年
つまり、20年以上受給しないと、浮いた保険料分に届かないということになります。保険料を払わなくても受給額が増える、というのはそれだけ強力なのです。
ならば、できるだけ全額免除にしておいて(あくまで所得などが条件に当てはまるならですが)、浮いた保険料相当額を運用に回したほうがお得(運用スキルに自信があれば)という考え方もできるかもしれません。
ただし、第11話でも解説した通り、今後のインフレの状況によって、この計算が成り立つかどうかは大きく変わりますので、慎重に考えるほうがよいでしょう。
それに、人生100年という嘘みたいな話が現実になるようなことがあれば、20年以上の受給は当たり前の話になってきます。
いずれせよ、人生の選択肢を広くとるためには、投資スキルが必修科目になりつつあるのは確かですけれども。
※ ちなみに、なぜ全額免除でも半額増えるかというと、元々年金受給額の半分には税金から補助が投入されており、保険料を元手に支払っているわけではないからです。この辺は財政の知識がある、かなりな上級者向けの話になります。
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国民年金保険料について学べる記事
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■ 第14話 国民年金保険料免除申請書の書き方と、免除申請などの承認基準へ
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