(ライター:hashidate amano)
「なんだか、社会保険料が高いなあ……」
そう思った方、もしかすると4月から6月の間に残業が集中したりしていなかったでしょうか?
社会保険料の計算に使う「標準報酬月額」は、4月~6月分の給与額から算出するのが基本です。
そのため、残業がその時期に集中してしまうと、次の1年間に支払う社会保険料がずっと高いままになってしまうのです。
この記事では、社会保険料がどのように決まるかの基本と、特定の時期に業務が集中したせいで保険料が高くなってしまった場合などの救済策について解説します。
頑張って残業した4月、実は裏目に?
ああ、毎年4月は忙しいな、うちの会社。こうも残業が増えちゃたまらないや……。 早いところFIRE達成して、残業とはおさらばしたいね……。
・年金博士
お、ファイヤ君。こんな遅い時間に晩飯かね?
あ、こんばんは、博士。そうなんですよ、仕事がすごく遅い時間までかかってしまって……。 博士もずいぶん遅いですね。
・年金博士
わしはついさっき起きたところじゃからな(徹夜でゲームをしていた)。 しかしファイヤ君、4月から6月の間は、あまり残業せんほうがいいのじゃよ。 社会保険(厚生年金や健康保険など)の保険料が高くなってしまう場合があるからな。
そうなんですか? そもそも社会保険の保険料って、どういう仕組みで決まってるんですか?
・年金博士
たっぷり寝て機嫌もいいから、今日に限っては役に立つ知識を解説して差し上げよう。
いつも役に立つ知識しか解説してません! とブログの中の人が言ってますよ。
健康保険と厚生年金の保険料は「標準報酬月額」を基に算出される
都道府県や組合によって異なる健康保険料率
いわゆる社会保険(厚生年金保険、および健康保険)の保険料は、基本的に給与に連動して決められることになっています。
月の給与額(報酬月額)に応じて、厚生年金は32等級、健康保険は50等級までのランクに分かれた「標準報酬月額」というものが決められており、その額に一定の料率をかけた額が保険料の額となります。
健康保険の場合は料率が都道府県ごとに異なり、東京都の場合は2022年度で健康保険が9.81%(40歳以上65歳未満=介護保険第2号被保険者になる場合は11.45%)となっています。
厚生年金は全国共通で18.3%(※)です。
※ 厚生年金基金による代行部分がない場合。これはかなり難しい話なのと、制度が原則廃止で5基金しか残っていないので、今回は省略します。
例えば、年齢が30歳で報酬月額が232,000円の場合、標準報酬月額は19等級(年金は16等級)の240,000円、その額に9.81%をかけた23,544円が一か月分の健康保険料となります。
その額を社員と会社で折半するため、実際に社員が負担するのは半額の11,772円となるわけです。
厚生年金保険料なら、同じく240,000円に18.3%をかけた43,920円。
その半額が社員の負担なので、実際に給与から引かれるのは21,960となるわけです。
各都道府県の社会保険の健康保険料率は、以下の全国健康保険協会(協会けんぽ)のサイトで確認することができます。
なお、会社が協会けんぽ以外の独自の健保組合に入っている場合や、公務員の共済組合の場合は、料率も独自に定めていますので、そちらでご確認ください。
(共済組合の場合は「短期給付掛金」となり、若干仕組みも異なります)
保険料の支払いは給与からの天引きによって行われ、実務上は前月分の保険料を翌月の給与から引く場合が多いと思われます。
ボーナスから引かれる保険料もある
なお、月々の給料以外にボーナスが出る場合(年3回まで。年4回以上支給される場合は、ボーナスではなく給与とみなされる)は、賞与額(ただし4月から翌年3月までの年度内で573万円を上限とする)を端数処理して算出した「標準賞与額」に、前記の保険料率(先ほどのケースでは9.81%)を掛けて算出した額が、健康保険料としてかかります。
会社との折半で、実際にひかれる保険料はその半額になるというのは、月々の給与分と同じです。
これは厚生年金保険料も同様(ただし標準賞与額は月間の支給額150万円を上限とする)です。
もう一種類の保険料?
なお、標準報酬によって算定される負担額には、これ以外に「子ども・子育て拠出金」というものもある(「児童手当」の財源となる)のですが、こちらは会社側が全額負担となっており、社員の負担はありません。
逆に言うと、事業主側になる場合は、この額を忘れずに計算しておかないと慌てることになるので注意が必要ですね。
・年金博士
どうじゃ、わかったかね?
保険料の計算方法自体は分かったんですが、さっき博士の言ってた「4月から6月に残業をすると損」な理由が全く出てこないんですが……。
・年金博士
まあ、あわてるなし。ここからそれを説明しようと思っておったところじゃ。 問題は、先ほどの説明にさらっと書かれた「月の給与額(報酬月額)」という部分にあるのじゃ。
「標準報酬月額」は4月から6月までの給料から算出される
「報酬月額」という名称だけを見ると、まるで実際に毎月の給料から算出しているようですが、実際には簡略化された方法を使っています。
算出にはいくつかのやり方がありますが、最もポピュラーなのが、年に一度事業主が「算定基礎届」を日本年金機構に提出することによって行う「定時決定」です。
この「算定基礎届」は、毎年7月1日時点の社員の給与について報告するもので、その内容は基本的に、4月~6月の間の給与額についての届け出となっています。
つまり、この4月~6月の間の給与をもとに、9月分からの新年度の標準報酬月額が算定される(社会保険料の年度は9月~8月)、ざっくり言えばそのように考えてよいと思います(会社に採用された時期や、算定期間内の勤務日数などによって、さまざまな例外あり)。
ですから、この間にたくさん残業をして給与が高くなると標準報酬月額が高くなり、そこから算出される保険料も、1年間高いままとなってしまうわけです。
厚生年金については、保険料が高ければ受給額も高く算定される仕組みですが、健康保険の場合、標準報酬月額が高くなっても万一の際の傷病手当金の額くらしかメリットがありません。
それで博士は、4月~6月に残業をすると損だ、と言ったわけです。
そんな仕組みになっていたなんて……。でも、業績不振なんかで年の途中で給料が下がることもあるし、そもそも4月ごろなんて年度替わりで忙しいことも多いんだから、そんな時期の給料で保険料を決められたら毎年割高、ってことになっちゃいますよね。 国の制度ってのはおかしなものが多いなあ……。
・年金博士
おかしな制度が多いのは確かじゃが、そういう場合には救済措置もある。 最後に、そこも解説しておこうか。
給料の額が大きく変わった場合には、保険料の再計算も可能
1 随時改定(「月変」)
まず、何かの理由で給与が定時決定時よりも下がった場合ですが、この場合は「報酬月額変更届(月変)」というものを提出して、標準報酬月額を途中で変更してもらうことができます。
これを「随時改定」といいます。
ただ、この制度は給与本体が下がった場合だけで、上乗せである残業代が減った、などというケースは対象にはなりません。
給与の減少幅が2等級以上になることや、減少してから4か月以上経過していることなど、条件もあります。
2 保険者算定
一方、業務の性質上、毎年必ず4月~6月の時期が業務繁忙期になって残業が多くて損、というケースに対しては、年間の平均の給料とこの時期の給料の差が大きい(やはり2等級以上)場合で、社員の同意を得た場合に限り、その社員の年間の平均給与を用いて標準報酬月額を算定できる「保険者算定」という制度が定められています。
社員の同意が要るのは、標準報酬が下がると、将来の厚生年金額に不利などの理由があるからだろうと思われます。
実際には、社員から申し出て下げてもらう、というケースもあります。
そうか、救済措置もちゃんとあるんですね。 でもこんなの、会社の担当がちゃんとわかってないと、申請してもらえないですよね。
・年金博士
ベテラン社員さんが「今年も保険者算定にしてよ」と申し込んで来る、というケースもあるからな。総務担当なのになんで知らんのか、と怒られたり。 社会保険料は会社も半額負担しておるから、知っておれば法定福利費を抑えることもできるので、必須の知識なんじゃよ。
とにかく頑張って残業を乗り切って、残業代はちゃんともらって、「保険者算定」をお願いすることにしますよ。 ありがとうございました。
・年金博士
そうかね、そうかね。じゃあお礼にスパイシーバーガーをわしに……。
だが断る。
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