(ライター:hashidate amano)
社会保険の健康保険(被用者保険)に入っていた人が失業した場合、国民健康保険に入るか、在職時の健康保険を継続するかを選ぶことになります。
どちらを選ぶかは、保険料の額を比べて決めることになります。
国民健康保険は前年の所得などで決まりますが、失業時の減額制度というものもあります。
社会保険のほうは、今払っている保険料の倍額になることが多いでしょう。
この記事では、そのどちらを選ぶべきか、どこでどんな風に相談すれば判断できるかについて解説しています。
退職後に多額の保険料がかかって困り果てる、というのは実際によく聞く話です。
そんなことにならないように、ぜひその仕組みを知っておいていただきたいと思います。
なお、一番お得なのは、誰かの社会保険の扶養に入ることです。
これが可能なら、保険料は一切かかりませんので、こちらも検討してみてください。
奴の足元に叩きつけたもの
・年金博士
わはははは、ついに奴の足元に叩きつけてやったわ。実にいい気分じゃ。空が高く感じられるわい。
ずいぶん機嫌がいいですね、博士。何かいいことがあったんですか?
・年金博士
上司の暴虐に耐え続けること幾星霜、ついにわしも決意したんじゃ。辞表を叩きつけてやった。 あのチーフめ、目を白黒させておったわい。
辞表って博士、いつの間に就職なんかしてたんですか? まあ、パワハラ行為があったのなら、辞めるのは仕方ないかもしれないですけど。
・年金博士
5日前、わしも頑張って働いたんじゃ。 それがチーフの奴、勤務中にスマホで動画を見ておると言って、みんなの前でわしを非難しおったんじゃよ。
わずか5日?! まあ、いわれなき非難をされるのは辛いでしょうけど……。
・年金博士
辛かったとも。期間限定の無料配信じゃから、今見ておかないと有料になってしまう、と説明したが、聴く耳を持たんのじゃ、あのチーフは。
(本当に動画見てたのか……。辞表出すどころか、懲戒解雇になってもおかしくないのでは) と、とにかく、国民健康保険と国民年金の手続をしないといけませんね。
・年金博士
年金については、国民年金にまた加入して、全額免除の手続を取ることになる。 健康保険も国保になるが、 もう少しだけ長く勤めていたら、他にも選択肢があったのじゃが。
あれ? そうなんですか。社会保険を喪失したら、国保に入るものかと思ってた んですが。
・年金博士
社会保険の健康保険制度には、「任意継続」という仕組みがあるんじゃ。2か月以上の加入をした後に脱退すると、そこから2年間引き続いて加入ができるんじゃ。 以前は、保険料をわざと滞納することで脱退する、というやり方でしか途中では辞められなかったが、2022年1月からは脱退申し出が正式に可能になった。
(2か月加入しないと駄目なら、「もう少しだけ勤めれば」ではない気がする……) そ、そうなんですね。で、どちらに入るのが得なんですか?
・年金博士
そこがなかなか難しいんところなんじゃ。少し、解説してみるとしよう。
退職後の健康保険、お得な加入の仕方とは
博士の説明にあった通り、社会保険の健康保険喪失後にどの健康保険に加入するかについては、いくつかの選択肢があります。
実際にどの制度を選ぶかについては、主に保険料の額などを比較して検討することになります。それでは、各制度の保険料はどのように決まるのでしょうか。
1 国民健康保険を選んだ場合の保険料
国保については、自分が住民票を置いている市区町村で加入することになりますが、保険料(市町村によっては国保税)の計算法については、市区町村によってまちまちです。
とは言っても基本的な考え方はどこも似ていて、加入者の前年の所得に応じてかかる額、加入者の人数に応じてかかる額に、場合によっては一世帯当たりいくらという額や固定資産税の額に応じた保険料が追加される場合もあります。
(詳しい計算法については、第22話で解説していますので、そちらもご覧ください。)
基本的には、前年の所得が高ければ、保険料も高くなるというイメージです。
しかし、失業後に国保に加入するパターンの場合、前年は高い所得があった人でも、今は収入がゼロという場合が当然出てきます。そのため、市区町村によっては、失業者に対する保険料減免措置が独自に設けられていたりします。
また、会社都合による解雇など、本人の責任によらずに失業した場合(非自発的失業)は、国の制度として減額措置が作られており、この条件に当てはまる場合は、前年の所得を7割引きした額で保険料の計算を行うことになっています。
詳しくは次回で改めて解説しますが、この制度の対象となるかどうかは、ハローワークでもらえる「雇用保険受給資格者証」の「離職理由コード」で判断できます。
この制度が利用できる場合は、後述する社会保険の任意継続制度に加入するよりも、保険料が安くなる場合が多くなると思われます。
2 社会保険を任意継続した場合の保険料
第24話などでも解説しましたが、社会保険の健康保険料は、事業主がその半額を負担してくれることになっています。
従って、任意継続に加入した場合は、ざっくり言えば今の給料から引かれている健康保険料(ボーナスから引かれている分は除く)の、倍額がかかるということになります。
(まれに、事業主が半額以上の額を独自に負担してくれている、超ホワイトな会社もあるので注意)
なお、任意継続の保険料には、各健保組合ごとに上限額があるので、必ず倍額になるというわけではないという点に注意が必要です。
(細かい説明は省きますが、任意継続の保険料は退職時の給料額か、同じ組合に加入している社員の平均の給料か、安いほうを基準に算定するのが原則となっているため。ただし健保組合の規約によっては、退職時の給料額のほうが高くてもそちらを基準にされてしまうこともあります)
3 どうやって選ぶのか(まずは健保と役所で保険料の試算を)
一番確実な方法は、まず自分の入っている社会保険の健康保険を継続した時の保険料を試算してもらい、あわせて居住地の役場に行って、国保の保険料を試算してもらうことです。その額を比較して、安いほうに入るのがよいでしょう。
加入手続きの期限については、任意継続は退職日の翌日から20日以内、国保は14日以内と、国保のほうが先に期限が来ます。
国保は、期限よりも遅れて手続きをしても退職時にさかのぼって加入ができますが、その間の医療費などが問題になることもあるので、期限は守るようにしましょう。
なお、会社の健康保険組合によっては、独自に医療費の負担を安くする制度(付加給付)を設けている場合があります。多額の医療費がかかる見込みがある場合は、保険料が多少高くても、任意継続を選ぶほうが有利な場合もあるので、注意が必要です。
ちなみに、最も保険料の負担が少なくて済む方法は、「誰かの社会保険の扶養に入る」ことです。被扶養者なら、保険料は一切かかりません。
もしも、扶養に入れそうな家族などがいる場合は、この方法を真っ先に検討すべきだと思います。配偶者の扶養に入る場合は、国民年金保険料も不要になる可能性があります。
・年金博士
というわけで、試算してもらうのが一番という結論なんじゃが、これにも一つ問題がある。 国民健康保険料の減免制度は、実際に支払いが困難な状態になった場合しか申請できないものがあって、その時点での収入状況などによって減免額が変わったりするので、事前の試算ができない場合もあるんじゃ。 そうなると、とりあえずは減免はないものとして判断するしかない。もし任意継続を選んだ場合は、後から国保に切り替えることもできるからな。
減免計算のルールはあるんですよね?
・年金博士
各市区町村などの条例や規則、要綱などに定めがあると思うが、よほどの専門家でもないと、それを読んでも判断は難しいじゃろうな。 地元の役場の制度に精通している社労士などなら、話は別じゃろうがな。
そんなレアな人を見つけるほうがよっぽど難しいですね……。
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