(ライター:hashidate amano)
前年の所得額などで決まる国民健康保険料ですが、失業によって加入することになった場合は、各市区町村独自の減免を受けられることがあります。
失業前の所得をもとにまともに保険料をかけられてしまうと、払えない場合が出てくるからです。
会社都合などで失業した場合は、この市区町村ごとの減免制度とは別に、国の作った保険料軽減措置があります。
「非自発的失業者軽減」という仕組みですが、こちらは全国統一基準で、しかも市区町村ごのの制度よりも有利なことが多いのです。
この記事では、その失業者軽減制度について、詳しく解説しています。
役所などに保険料の相談に行く前に、ざっくりでいいので仕組みを理解しておくと、より有利な条件で保険料の減額を受けることができるかも知れません。
「辞表スマッシュ」は自発的失業
博士、前回(第29話)の話だと、会社を辞めて国民健康保険に入った場合は、市区町村が独自に作っている保険料の減免制度と、国の制度による減額とがあるってことでしたよね。
・年金博士
その通りじゃ。それにしても、ろくでなし上司の足元に辞表を叩き付けてやった時の、気分の良かったこと。 あれは、「辞表スマッシュ」とでも呼びたくなる爽快さで……。
いや、それは分かったんですが、その国の減額制度のほうについてちょっと聞きたいんですよ。 今の経済状況だと、いつリストラにあうか分からない、って人も多いでしょうし。
・年金博士
「非自発的失業者軽減」のことじゃな。 しかし、「辞表スマッシュ」の場合は対象外じゃよ。わしはあくまで、自分の意志で会社と決別したんじゃからな。 会社を出ると、空の蒼さがいつもよりもずっと濃い碧に見えて……。
あの、博士はそうかもしれませんが、今はその非自発的失業者の制度の話を詳しく聞きたいんですけど。
・年金博士
なんでわしがそんな説明を……って、そうじゃ、それがわしの役目なんじゃった。
(なんのために博士を自称しているのか、すっかり忘れている……)
会社都合などでの失業時に利用できる、保険料の減額制度
各市区町村が独自に決めている、国民健康保険料と減免制度
そもそも国民健康保険料(税)は、制度の基本のみを国が法律で決めて、あとの細かい部分は各市区町村などの「保険者」に委ねられています。
どの程度の所得があれば保険料がどうなるか、原則としては市区町村等の条例や規則で定められることになるわけです。
(保険料計算の詳細については、第22話参照)
ただ、ある程度以下の低所得者に対しては(世帯人数などによって基準がある)、国が定める「法定軽減」という制度があり、世帯の人数などに対してかかる保険料に対して、最大7割の減額が行なわれます。
(減額による減収分は、国が市区町村に「基盤安定負担金」という補助金を出すので、市区町村はそれほど損をしない)
これは国の制度で、しかも特に申請も不要。所得によって自動判定されます。失業したなどの事情も必要ありません。
実際に減額を受けた人には、そんな措置をしてもらったという認識もあんまりないかもしれません。
これに対し、前年は働いていて収入があった(=所得額があった)ので高い保険料がかかるが、今は収入がないので保険料が払えない、という場合には、申請による減免制度が色々ともうけられています。
この部分は基本的には前述のとおり市区町村の条例によって決まるため、制度も千差万別、しかも実際に払うのが困難になった時点の状況で減免額が決まることから、事前の試算も難しい場合もあります。
国が定める「非自発的失業者の軽減措置」
ところが、会社都合による解雇など、本人の責任によらずに失業した場合は、 例外的に国が統一で減額制度を設けています。これが「非自発的失業者の軽減措置」です。
この制度の対象となるかどうかは、ハローワークに離職票を提出して失業保険の申請を行った後にもらえる、「雇用保険受給資格者証」の「離職理由コード」 が「11・12・21・22・31・32・23・33・34」のどれかになっているかどうかで判断されます。
そのため、もしも雇用保険(失業保険)に加入していなかった場合などは、この制度の対象とならない、ということになります(リストラされた公務員など)。
なお、コロナ禍の影響で失業した場合の保険料減免については、こちらも国が定める減免制度があります。ただし、非自発的失業者の軽減が使える場合は、そちらが優先となります。
なんで公務員はダメなんですか?
・年金博士
そりゃ公務員には失業保険の適用がないからな。
そうなんですか。失業なんてありえない、ってことなんですかね。
・年金博士
多くの場合、失業保険(基本手当)の額を上回る退職金が出る、というのも理由じゃろうな。 もしも短期間でやめて退職金が少ない場合は、特例で失業保険が出るという措置もあるわけだからな。 さて、余談はこのくらいにして、軽減措置の内容を見て行こう。
7割引きの所得で保険料を計算する、非自発的失業者軽減措置
先ほどの条件に当てはまる場合、「雇用保険受給資格者証」を持参して役場に申請に行くことになります。
この制度は失業時に遡って適用されますが、それなら急がなくていいだろうと保険料の未納を放置していたりすると、財産差し押さえを受けたりするので、可能なら国民健康保険加入と同時に申請してしまうほうがよいでしょう。
措置の内容は、昨年の所得を70%減額した額で、保険料の計算などが行なわれるというものです。
昨年の実際の所得が100万円でも、所得は30万円しかなかった、という前提で保険料が決まるということです。
先ほど解説した「法定軽減」についても、減額後の所得で自動適用されますし、所得額に比例して計算される保険料(所得割)も同様に減額後の所得を基に算定されます。
この制度の珍しい点は、保険料だけではなく、第8話で解説した「高額療養費」などの計算においても、減額後の所得を基に自己負担の上限額が判定される(減額後の所得が少なくなる場合、非課税世帯の扱いを受けることもできる) ので、保険料だけでなく医療費も安くなるというところです。
なお、この減額措置は、離職日の翌日が属する月から、翌年度の末(医療費の場合は翌年度の7月末)まで適用されます。
3月31日退職などの場合は、 最大で2年間分の保険料が減額されて、医療費も2年と4か月分が減額されるという、非常に有利な制度になっています。
博士も、この措置を受けたほうが良かったんじゃないですか? 辞表なんか出さずに粘ってたら、会社の側から頼むから辞めてくれってお願いしてくれたかもしれないですよ? それなら会社都合退職でしょ?
・年金博士
………………。
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