(ライター:hashidate amano)
会社を退職すると、それまでに入っていた健康保険や年金も切り替える必要があります。
「仕事がなくなっちゃって大変なのに、それどころじゃないよ!」と言いたくなるのは無理もないのですが、ここでちゃんと手続きをしておかないと、後でもっと困ることになるかもしれません。
この記事では、退職後に加入できる健康保険3種類と、国民年金への切り替え手続きについて、具体的に解説しています。
何にもわからず役所に出かけてもう一度出直しになる、そんな面倒なことを避ける役に立つ内容になっています。
退職したら、まず健康保険と年金の手続きが必要
退職した後の、健康保険とか年金の保険料減免の話はこれまでにも何度か出てきましたけど、それ以前に国民年金に切り替える手続きなんかが必要ですよね。
・年金博士
その通りじゃな。わしが辞表スマッシュを決めて会社とおさらばした時も、そのあとの手続きがなかなか大変じゃったよ。社畜生活から卒業して、自由な日々を得るためじゃから仕方ないがな。
博士の会社勤めが続いたのって、確か5日間だけですよね……。
・年金博士
健康保険については国民健康保険に入るか、社会保険を任意継続するかの二択になるが、2か月以上加入しなければ任意継続はできんから、残念ながら少し期間が足りんかった。年金は継続制度がないから、国民年金に入るしかない。 (※ 昔は条件付きで厚生年金を任意に継続できる、第4種被保険者という制度があった。)
(少しどころではなく期間が足りないような……) 第三の選択肢、配偶者の社会保険の扶養に入る、という手段はとれないんですよね。二次元嫁の扶養には入れませんからね。
・年金博士
それは制度がおかしいのじゃが、仕方ない。 手続きをするにあたって、最大の難関は役所の窓口が怖くて行きたくないということじゃ。幸い、担当の人がたまたま優しくて、「たった5日で会社を辞めるとは何事か!」などとは言われなかったが。
だから今時、そんな対応されることなんてあんまりないですから。 (たった5日で辞めたという自覚はあるんだな……)
退職時の健康保険の手続きをケース別に解説
1 社会保険の健康保険を継続する場合。
2か月以上の加入後に退職し、保険料が国民健康保険よりも安くなる場合はこのパターンです。
資格喪失日(原則、退職日の翌日)から20日以内に、加入していた健康保険組合などに「任意継続被保険者 資格取得申出書」(組合によって、若干名称が異なる場合がある)を提出しましょう。
申請書については、最近は各健保組合のサイトからダウンロードして印刷するというのが一番簡単ですが、職場の庶務・労務担当者から、退職手続きの各種書類と一緒に渡してくれる場合もあるようです。申請書の提出も、職場を通す場合と、直接健康保険組合などに申請する場合とがあります。
健康保険証の記号番号などの券面が、在職中に使っていたものとは変更となるため、保険証は新たに交付されることになります。交付までの期間は、組合等によって異なります。
2 家族・配偶者等の扶養に入る場合
収入その他の要件をクリアして、家族や配偶者の扶養に入る場合は、その家族などが加入している健康保険組合等に「被扶養者(異動)届」を提出して、扶養の認定を受けることになります。
手続きも、その家族等が行うことになりますが、こちらも直接組合とやり取りをする場合と、職場の担当者を通す場合とがあります。健康保険証の交付も、そちらの組合から行われます。
なお、被扶養者の基準については、下記の第26話で解説しています。
3 国民健康保険に加入する場合
国民健康保険の加入手続きは通常、住民票の住所がある市区町村役場で行います。
例えば鎌倉市の住民なら、鎌倉市役所保険年金課の窓口に行って、そこで加入手続きをするわけです。
簡単な話ですが、横浜市のような大きな都市(政令指定都市)では市役所ではなく各区役所の保険年金課での窓口での手続きとなるなど、各自治体によって実は窓口は様々です。
先ほど適当に例に出した鎌倉市においても、市役所本所でなく、支所においても一部の手続きは可能ですし、逆に京都市に編入された右京区京北地区(旧京北町)のように、右京区役所では加入を受け付けておらず、京北出張所(元の京北町役場)でしか加入手続きができないなど(つまり、市役所でも区役所でも手続きできず、さらにその出張所でないと受け付けてくれない)、合併があった場合などは特に複雑な傾向があるようです。
サイトで確認しましょう、といいたいところですか、各自治体のサイトを見ていても正直良く分からない場合も多いので、面倒でもとにかく電話してから出かけるのが確実というのが現状です。だるくね? という気持ちは分かりますが。
手続きにおいては、社会保険の喪失日(原則、退職日の翌日)が証明された書類が必要です。会社や健保組合、場合によっては年金事務所でも発行してもらえます。
ハローワークに提出する「離職票」などにも離職日は入っていますが、社会保険の喪失日が入っていないので、受け付けてもらえない可能性があります。
(正社員からパートに変わってから離職した場合など、社会保険の喪失日が離職日と大きく異なるケースがあるため)
※ 役場には、マイナンバーを使った社会保険喪失日の照会システムというのもあったりするのですが(マイナンバーカードの有無に関係なく照会できる)、喪失日の反映が遅い上に照会手続きが面倒だったりして、あんまり役に立っていないケースもあるようです(2022年現在)。
あとは、免許証やマイナンバーカードなどの、写真入りの身分証明書が求められる場合が多いと思います。1年以内に市区町村をまたがる引っ越しをした場合は、1月1日時点の住所地を訊ねられることもあるので、それも確認しておいたほうがいいでしょう。
(保険料の算定に必要になる)
保険証は、身分証明書がしっかりあれば、その場で即日交付してもらえることも多いでしょう。保険料の通知は、後日別途郵送される場合が多いと思われますが、お願いすれば試算額を出してもらえることもあると思います。
まあ、証明書のことも含めて、やはり面倒でも役場に事前に必要なものの問い合わせをしておくほうが良いでしょう。だるくね? という気持ちは分かりますが(2回目)
※ 上級編の話になりますが、国保の中にも、市町村でなく業界の組合が運営する「組合国保(国組、特国)というものもあります(医師国保、建築国保など)。 こちらはいわゆる社会保険ではありませんが、組合国保+厚生年金の組み合わせで加入している場合(「健康保険除外承認申請による認定」)があるのが複雑です もし、同じ住民票の世帯の中に、この組合国保の加入者がいる場合は、市町村国保には入れませんので注意が必要です。こちらの加入は組合で行います。
・年金博士
ほれ見ろ複雑じゃろうが。
要するに、分からないことがあれば役場や組合に聞いて、必要と言われたものを持っていくだけですよ。
・年金博士
どの保険に入るといいか、までは教えてくれんがな。自分で勉強しないと。
退職時の年金制度の手続きをケース別に解説
1 国民年金(第1号被保険者)に加入する場合
前述のとおり、厚生年金には継続の制度がないので、基本的には国民年金に加入することになります。
手続きする場所(役場)については、前述の国民健康保険とほぼ同じだと考えていいでしょう。「保険年金課」などの名称で、同じ部署で手続きが行える場合も多いと思います。
必要書類もほぼ同様ですが、年金の手続きに際しては「年金手帳」などの「基礎年金番号」が分かるものを持参するほうがいいでしょう。役場から年金機構へ照会すれば、「基礎年金番号」の確認は可能ですが、必ず対応してもらえるかは分かりませんし、身分証明書などの確認も厳しくなるかもしれません。
保険料の納付書は後日、日本年金機構から郵送されますので、その場で支払う必要はありません。
※ 国民年金の加入手続きは、日本年金機構の「年金事務所」でも可能です(市区町村は法的な委託を受けて受付をしているだけで、本来は年金機構の業務)。 少しでも早く支払って前納割引をできるだけ多く受けたい場合は、年金事務所に直接加入手続きに出向けば、納付書をすぐに発行してもらえる可能性があります。 ただし、年金事務所は原則予約制なので、事前にかならず問い合わせしましょう。
2 配偶者の扶養に入る場合
健康保険と違って、年金の場合は扶養と言っても、厚生年金に加入している配偶者の扶養に入る(第3号被保険者)という選択肢しかありません。
つまり、親や子の扶養に入るという制度はありません。
また、扶養する側の配偶者も原則65歳未満までに限られます(加入期間が足りずに年金の受給資格を満たしていない場合のみ、70歳まで)。
扶養に入る側の年齢制限は、60歳未満となりますが、これは国民年金の加入義務が60歳未満までなので当然と言えます。
手続きについては、配偶者の会社側で、健康保険の扶養と一括で行ってもらえると思います。
第3号被保険者制度は、夫婦ともに保険料を全く負担せずにすみ、しかもちゃんと国民年金を支払った扱いになるという極めて有利な制度なので、極力利用しましょう。
・年金博士
なお、年金については、手続きせずに放置しておくと、年金機構から加入の勧奨の手紙が来る。それでも無視していると、強制的に加入となって、納付書が送られて来ることになる。 結局はそこから慌てて免除制度の相談に行くようなことになり、書類をそろえるために走り回ることにもなりかねないので、辞めたらすぐに加入手続きをしておくことじゃな。 ……ファイヤ君に手続きを頼もうかな、次回は。
や・り・ま・せ・ん。
退職後に、無効になった保険証をそのまま使い続けると……
新しい健康保険証の手続きや交付までにどうしても時間を要することがありますが、その間に前の会社の保険証を使ってしまわないように注意が必要です(通常は、退職時に即返還を求められるはずですが)。
病院では、窓口で出された保険証は原則有効なものとして取り扱いをします。(「オンライン資格確認」というシステムも2021年から稼働し始めていますが、退職のデータがすぐ反映するわけでもないので、まだ不完全です)。
しかし、実際には退職によって効力の切れている保険証なので、結局後になって健保組合などから、医療費の7割等(健保組合が費用を負担した分)を返すように通告が来たりすることがあります。
こういうことの無いように、退職後は決してその保険証を使わず、新しい保険証の手続き中であることを、病院の窓口で正直に申告しましょう。
原則は、一旦10割負担となり、新たに加入した健康保険のほうに医療費の還付を請求(療養費の申請。これもまた、回を改めて解説します)することになりますが、公立病院以外の多くの病院では、新しい保険証を翌月の初めまでに持って行けば、3割負担等で精算し直してくれると思います。
※ ただし、病院側に精算に応じる義務はなく、親切で対応してくれているだけなので、無理を言ってごねたりすることは決してしないようにしましょう(場合によっては威力業務妨害で警察行きです)。
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