(ライター:hashidate amano)
「診察」と「健康診断」、どちらも病院の同じような設備を使って検査をしたり、一見とても似たようにも思えます。
でも、健康保険の世界では、この二つには大きな違いがあります。
健康保険の対象になるのは、あくまで「病気やケガの治療」。必要に迫られて、やむなく病院に行く、というのがその条件なのです。
一方の「健康診断」は、はっきりした症状がなくても、体のどこかに異常がでていないかを調べてもらうものです。こちらは基本的に、健康保険の適用にはならないのです。
この記事では「健康診断」ではなく、「診察」を受けたほうが有利になる場合について解説します。
はっきりと体調の異常を感じた時は、普通に病院に行って「受診」をしましょう。
そのほうが、費用面でもかなりお得になるのです。
頭痛がひどいので「脳ドック」に行く?
最近どうも,謎の頭痛が繰り返し起きて,困ってるんですよ。
・年金博士
なるほど,それは頭が痛い悩みだね。
いや,面白がってる場合じゃなくて。頭の片側がずきずきと痛んで,それが丸一日も続くんですよ。
・年金博士
偏頭痛というやつじゃな。重大な病気の前兆という可能性もあるから,ちゃんと調べてもらったほうがいいな。
ですよね。それで,今度の健康診断の時に脳ドックというのをオプションで受けてみようと思ったんですが,MRI検査を受けようとすると何万円もかかるみたいで。これも困るなあって。そんなお金,簡単には出せないし。
・年金博士
頭が痛いうえに,首も回らんというわけじゃな。
だから,面白がってる場合じゃないんですよ。ギャグのセンスも古いし……。
・年金博士
というか,実際に症状が出てるおるわけじゃから,脳ドックのような「健康診断」ではなく,普通に病院で「受診」すれば,健康保険が適用になって,ずっと安く済むはずじゃ。 そもそも、症状によってはMRIまでは不要という判断をしてもらえるかもしれん。
えっ? さっきまでふざけ散らしてたのに,突然真面目に役に立つ知識を教えてくれてありがたいんですが,脳ドックは割高ってことなんですか?
・年金博士
割高というか,そもそもの目的が違うからな。脳ドックは健康診断の一種で,病気の早期発見が目的じゃ。それ自体は治療ではないから,健康保険は適用にはならんのじゃ。 では、今回はどういう場合に健康保険が適用されるのかを、解説するとしようか。
「治療」ではない「健康診断」は、健康保険の適用対象外
自覚症状がある場合の「受診」であれば、3割負担で検査が受けられる
一般に「健康保険」と呼ばれる公的医療保険制度は、基本的に病気やけがの「治療」のために作られている制度です(死亡時や出産など、その他の給付制度もありますが、それはまた別の回で)。
二人の会話にあったように、実際に自覚症状が出ていれば、すでに「病気」を発症している可能性があるため、その治療を目的として行う検査は(特殊な先進医療などでない限り)健康保険が適用となり、いわゆる3割負担などで済みます。
健康保険が適用になる治療は、その内容に応じて費用(診療報酬点数)が決まっていて、病院が勝手に価格を決めることはできません。
理屈上はどこの病院でも、同じ費用で済むことになっているわけです。
(制度上は地域別の設定も可能だが、離島の加算などを除いてまだ実施されていない。)
予防のための「健康診断」であれば、全額実費が原則
これに対して、症状の出ていない段階で受ける「健康診断」は治療ではありません。
健康保険が適用にならないので、値段も病院が自由に決めることができます。どこの病院で受けるかによって費用もいくらか違いますし、全額自費負担が原則になるので、費用も高額になりがちです。
(健康診断の結果病気が見つかり、再検査や治療が必要になった場合は、もちろん健康保険が使えます)
つまり、すでに自覚症状が出ているのなら、脳ドックなどの「健康診断」を受けている場合ではなく、普通に受診するのが正しいし、費用も安くなるということです。
なるほど、症状が出ているかどうかで、その後の対応が全く違ってくるということですね。 僕の場合、深夜まで飲み会に参加したあくる日に限って、ひどい頭痛が起きるんですが、これは病気だから保険で治療してもらえるというわけですね。
・年金博士
そりゃ二日酔いじゃ……。ちょっとは酒を控えるようにしてはどうかね。
飲まなきゃやってられませんよ、こんな世の中じゃ……。
・年金博士
(すさんでおるな……)
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健康保険が実施する「特定健診」なら健康診断がお得に
健康診断などの中には、社会保険(被用者保険)や国民健康保険の運営者(保険者)が実施する、「特定健診」というものがあります。
これは、40歳以上の人が対象になる「健康診査」で、主に生活習慣病になるのを予防するためのものです。検査の内容も、いわゆるメタボ状態になっていないかどうかのチェックが中心になりますが、胸部や胃のレントゲン検査なども含まれており、要するには一般的な健康診断と同じものです。
この「特定健診」も治療には当たらないため、健康保険が使えるというわけではないのですが、健保組合や市区町村などがそれぞれ費用の補助を行っており、年に1度の健康診断が無料や低額で受けられたり、人間ドックなどが3割負担相当額で受けられることもあります。
(健康保険によっては、年齢に関係なく人間ドックの補助を受けられる場合もあります)
「特定健診」は年に1回受けることになってますが、対象の人には受診の案内や受診券などが送られてきたり、「ぜひ受けましょう」と強く勧めるパンフレットなどが入っていることも多いです。
安く健康診断を受けさせてもらえるということなので、これは利用しないと損ですね。
このように手厚い扱いになっているのは、「特定健診」の本当の目的が医療費の削減だからです。もし生活習慣の乱れから病気になってしまえば、その治療にかかる医療費が大きくなってしまい、健康保険側の持ち出し(=国の負担)も増えてしまいます。それを事前に食い止めるため、というのが最大の目的というわけです。 受診者が少ない健康保険は国から強く指導を受けますし、補助金の額にも影響するので、実施する側もなかなか必死です。 しかし裏事情はともかく、利用しないと損だとは言えます。
(おまけ)アルコールと健康保険
酒類(アルコール)が原因の病気でも、健康保険の適用がされる場合はあります。
故意に症状を引き起こした場合には、健康保険による治療には制限がかかるため、ファイヤ君のような単なる飲みすぎによる二日酔いの治療は自費となる可能性がありますが、例えばこれがアルコール依存症の域にまで進んでしまった場合は、何らかの背景を伴う精神疾患として健康保険による治療の対象となります。
ちなみに、アルコール依存症は各種依存症の中でも最も治療が困難なものの一つに数えられ、場合によっては周囲の家族などを巻き込んだ共依存状態という病的人間関係を作り出すことも知られています。
酒は飲んでも飲まれるな、ということで。
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