(ライター:hashidate amano)
保険証を持って行くのをうっかり忘れて、旅先などで病院にかかった場合、医療費の全額を支払うことになる「自費診療」を経験された方もおられるのではないでしょうか。
治療を受けないわけにも行かないので、高い費用を泣く泣く支払う、ということになってしまうわけですが、この費用の一部が返金される「療養費」という制度があります。
この記事では、その「療養費」の仕組みと、その申請に必要な証明書類について解説します。
受診から2年以内なら申請できますので、知らなくて放置していた方なども、ぜひ読んでみてください。
なお、「療養費」で返金があるとしても、保険料を持って行って受診した場合に比べると、やはり損になることもあります。
その点についても、詳しく解説しています。
バーベキューの肉は良く焼いて食べましょう
実は、先日旅行先で急にお腹を壊しまして、慌てて病院にかかったんですが、うっかり保険証持って行くの忘れちゃいまして。 結局、自費診療ってことになって高い費用を払うことになっちゃいました
・年金博士
へえ、旅行かね。良かったね。 しかし、腹痛くらいなら征露丸でも飲んでおけば良かったんじゃないかね。 (※単にポピュラーな薬の例を出しただけでステマではありません)
(博士、陽キャアピールが大嫌いだからな。ほんとは友達のSUVでグランピング行った、なんて死んでも言えないな) いや、下すわ戻すわで大変だったんですよ。結局、食中毒って診断で。
・年金博士
バーベキューで、焼けてない肉でも喰ったんじゃね? まあ、食中毒なら十分水分取って寝てるしか治しようがないじゃろう。むやみに下痢を止めるのも良くない場合がある。
(妙に勘が鋭い……。しかしさすがに詳しいな) 病院でも、そう言われて点滴だけしてもらいました。 これが結構高くて……。健康保険から返金してもらえる、って言われて書類はもらったんですけど。
・年金博士
保険証がなくて自費負担になった場合、「療養費」として医療費の7割分を支給申請することが出来るからな。 ただ、自費診療になってしまったことに、「やむを得ない事情」があったと認められないといかんが。
旅先で急病になりました、というのではダメなんですか?
・年金博士
単にうっかり保険証を持って行くのを忘れました、というのでは本来認められんのじゃが、「緊急受診」と言っておけば通る可能性は高いじゃろうな、実際には。
良かった……。じゃあ、払った額の7割は戻って来るわけですね。
・年金博士
ククク……それが「払った額の7割」が戻るとは限らんのじゃ。 それが「自由診療」の恐ろしさなのじゃ!
療養費の仕組みと、申請に必要なもの
健康保険を使っての受診は「診療報酬点数」×10円が医療費になる
日本の公的医療保険制度では、医療費の算定に共通の「診療報酬点数」というものを使っています。治療の内容ごとに、1回当たり何点、などという点数が全て決められているのです。
同じ人が全く同じ内容の治療を受ければ、点数も同じになるのが原則となっています。
(地域別の設定も制度上は可能ですが、実際にはまだほぼ全国一律です。離島の加算などはありますが)
この、点数の合計に10円をかけたものが、いわゆる「10割負担」の医療費ということになります。
そして、博士の解説に出てきた「療養費」は、その「10割負担」の医療費の7割(年齢等によっては8割、9割)が健康保険から支給される制度、ということになっています。
療養費の申請に必要なものは?
上記のように「診療報酬点数」をもとに額の計算を行う仕組みなので、役所や健康保険組合に申請する際には、支払った医療費の領収書に加えて、「診療報酬明細書(レセプト)」という書類か、同等の詳しい内容が書かれた証明書が必要となります。
自費負担の領収書に、医療費の簡単な内訳が書かれている場合もありますが、その内容では不十分な場合が多いでしょう。
また、詳し目な内容の「診療明細書」(※)を別紙で出してもらえた場合でも、「病名」の記載がなければ医療費の審査で落ちることがあるので、注意が必要です(加入する健康保険による)。
※「診療明細書」はあくまで保険証を持参して受診した時に発行されることになっている書類のため、内容の一部が簡略化されている。
自由診療には「診療報酬点数」のルールは適用されない場合も
さて、7割分が帰って来るのなら、結果的に3割(あるいは2割、1割)負担となるわけで、それで何の問題もないように見えます。
しかし実際には、保険証をうっかり忘れて受診すると、大きな損が出る場合があるのです。
というのも、「診療報酬点数×10円」という医療費額は、あくまで保険証を使って受診した場合のみのルールだからです(ちなみに労災保険なら単価12円)。
保険証なしで治療を受けた場合(=「自由診療」といいます)、「診療報酬点数」によるしばりはありません。その名の通り、病院が自由に価格を決めることが出来ます。
「この手術、1千万円で請け負おう」ということも、理屈上は可能なわけです。
とはいえ、病院側もそこまで無茶苦茶を言ってくることは普通ありません。
高くても、「診療報酬点数×15円」など、いくらかの上乗せをしてくる場合がほとんどです。
それでも割高になるのは間違いなく、次で説明するように、医療費でかなりの損をしてしまう場合もあります。
(単価が20円、というのも見たことがあります。交通事故の場合はさらに上乗せになる場合も)
なお、自由診療の場合に限り、病院は消費税を取ることもできます。
あ、ほんとだ。この領収書、消費税額が書いてある。 費用も点数合計の15倍みたいだし。
・年金博士
患者の地元の病院の場合は、今後の付き合いもあるので10割負担にしてくれる場合が多いようじゃが、二度と来ないだろう旅行先となると、この際儲けてやれという病院もあるじゃろうな。
残念ながら、払った額の半分以下しか返って来ないことも
ファイヤ君のように、診療報酬点数×15円プラス消費税を支払ったとしても、療養費の算定対象になる医療費は、あくまで点数×10円までです。
返ってくるのは、その7割ということになるので、以下の例のような計算になってしまいます。
・診療点数 1,200点の場合 支払った医療費 1,200点×15円×1.1(消費税)=19,800円 返ってくる療養費の額 1,200点×10円×0.7(7割給付)=8,400円 結果的に自己負担となった額 19,800円-8,400円=11,400円
つまり、支払った額の半分も帰って来ない、ということになります。
な、なんだって……。馬鹿な……損すぎる……。
・年金博士
ウェイウェイ遊んできた報いじゃよ。これからは忘れずに保険証を持って行くことじゃ。
いや、遊んでませんから。 (本当は遊んで来たけど)
健康保険と医療費について学べる記事
■ 記事一覧へ
コメント