(ライター:hashidate amano)
健康保険証を使って病院などで治療を受けられるのは、日本の国内だけとなっています。
海外旅行などの際に急病になって治療を受けても、日本の健康保険は使えないので、民間の海外旅行保険などで対応する場合がほとんどでしょう。
ところが海外で支払った医療費でも、国内の病院で保険証を使って受けるのと同じ治療なら、健康保険からの返金を申請することができます。
これを「海外療養費」と言います。
この記事では、その「海外療養費」を申請するための手続きについて解説します。
海外の病院で受けた治療の内容を証明してもらうための用紙が必要になりますが、これはダウンロードできるので、旅行への出発前に入手しておきましょう。
台湾は近場?
博士、実は今度ちょっと旅行に行くことになりまして。ごく近場なんですけど。
・年金博士
それは羨ましい。近場ということは行先は修善寺かね? あと湯ヶ島と下田かな。
何で近場だったら伊豆半島てことになるんですか……。 僕が行くのは台湾ですよ。台北と九份にちょっと行くだけですけど。 それで、日本の健康保険を海外で使う方法があるって聞いたんですけど、どんな手続きをすればいいのかなって。
・年金博士
海外?! 君は海外を近場だと?! わしなんか、ずっと憧れてる伊豆にもまだ行ったことないのに! (※博士は「伊豆の踊子」のファン)
(しまった、箱根とか言っておけばよかった) お土産に、博士の好きなものを買ってきますよ。
・年金博士
いい奴じゃな君は! よし、海外療養費制度のことが知りたいんじゃな。早速解説して差し上げよう。
(この分かりやすさが博士の取柄かも……)
海外旅行に行く前に、診療内容の証明用紙を入手しておこう
いったんは実費を支払い、後から申請して返してもらう
海外で日本の健康保険が使える、と言ってももちろん、現地の病院で健康保険証を見せるわけではありません。
ファイヤ君の行く台湾には、日本のとよく似た国民健康保険の制度があるのですが、だからと言って日本の保険証が使えるわけではないのです。
では、どのような仕組みになっているのかというと、一旦は現地で治療費を実費で払い、その後で加入する健康保険に、医療費の7割分(年齢などによって異なる)に当たる額の支給を申請するということになります。
これを、「海外療養費」と言います。社会保険の健康保険(被用者保険)でも国民健康保険でも、同じ制度があります。
申請には、専用の証明用紙を使う
医療費の請求に当たっては、定められた項目が記載された証明書が必要になります。現地の病院の発行する明細書でも請求できないわけではないのですが、記載内容が不足していることが多く、その場合は申請が認められません。
そのため、健康保険では専用の証明用紙を用意しており、「診療内容明細書(医科用のFormAと歯科用のFormC)」「領収明細書(FormB)」の3種類があります。
加入する健康保険組合や、市区町村役場に置いてあるのですが、一番簡単なのは海外へ出発する前に、各健康保険のサイトからダウンロードして印刷しておくことです。
様式自体は厚生労働省が見本を示しているので、どこの健康保険でもほとんど同じものを使っています。つまり、どこのサイトでダウンロードしてもOKということになります。
(参考・大阪府枚方市役所のサイト)
https://www.city.hirakata.osaka.jp/0000020643.html
なるほど、じゃあこれを印刷しておいて、現地の病院で書いてもらえばいいわけですね。 後からちゃんと7割分が帰って来るのなら、もし費用が大きくなっても安心ですね。
・年金博士
ただ、海外療養費を支給してもらうためには、条件がいくつもあるのが要注意じゃ。 必ずしも、現地で払った額の7割が戻って来るとは限らんのじゃよ。
そう言われると、不安になりますが……。どんな条件があるんでしょうか。
海外療養費支給のルールと実際の手続き
1 保険外の治療は対象にならない
海外療養費の支給額を決めるに当たっては「同じ治療を日本国内で受けたらいくらかかるか」を上限とする、というのが基本的な考え方になっています。
つまり、国内で保険の効かない治療や投薬などを受けた場合は、海外療養費の対象にはなりません。あくまで自費負担です。
その判定のために、専用の証明様式をわざわざ作ってあるわけです。
ただし、実際には判断が難しい場合も多く、日本では保険の効かない治療だと書面から明確に分からない場合は、そのまま7割が支給されることもあります。
2 治療目的の海外渡航の場合は支給不可
最初から、海外の病院で治療を受けるために出国した場合は、支給の対象になりません。
あくまで、旅行や仕事などを目的に海外に出かけたが「急病やけがなどでやむを得ず受診した場合」しか対象にならないのです。
自分の意志で保険証の使えない病院にかかった場合は保険の対象とはしない、というのが健康保険制度の基本ルールだからです。
3 支給決定日時点の為替レートで医療費を計算する
現地の病院では、ほとんどの場合は現地の通貨で医療費を支払うことになります。
(まれに日本円で支払える病院もありますが)
しかし、海外療養費の支給はあくまで日本円での計算となるので、為替レートの影響を受けることになります。適用されるレートは、内容の審査が終わって支給が決定された時点のものになります。
現地で支払った時点に比べて、支給が決まった時点では大幅に為替レートが変動した場合は、円換算では大きな損得が生じることもあるわけです。
(例えば円高になった場合、現地で支払った時点では円換算で1万円相当だった費用が、支給時点では円換算で8000円相当にしかならず、返ってくる7割相当額も大幅に減ってしまう、ということがあり得ます)
4 支給申請には、証明書の翻訳と出入国の日付が証明できる書類が必要
海外の病院で受けた治療内容の証明書は、当然ですが現地の言葉で書かれることになります。
しかし、申請の際にはその証明書の翻訳が必要となります。これは申請者本人が行っても、誰かに頼んでも構いませんが、翻訳者の氏名などの明記が必要になります。
今ではgoogle翻訳なども使えるので、昔ほど難しくはなくなりましたが、医者の書いた字が読めなくて苦労する場合もあります(特にアルファベット以外の場合)。
また、申請に当たっては、空港の出入国審査場で日付スタンプを押してもらったパスポートの提出が必要です。
ところが最近では、空港に設置された「自動化ゲート」で出入国の手続きを済ませることも可能なため、パスポートにスタンプが押されていない場合もあります。
この場合は、出入国記録の開示請求を法務局に申請して、証明書を入手することが必要になることがあります。
(ビザや航空券で渡航を証明できれば可、としている健保組合や市区町村も多いようです)
……正直、これは面倒ですね。 受けたのが日本で保険の効く治療かどうかなんて、こちらには分かりませんし。
・年金博士
健康保険側が、現地の病院に調査を行うことへの同意書というのも必要になる場合がある。 要するに、不正請求があるもの、という前提でそれを防ぐために制度ができているわけじゃよ。
クレジットカードについてる海外旅行保険とか、空港で加入できる保険とか、そっちを使うほうが簡単ですね。
・年金博士
そういうことじゃ。実際、海外療養費の申請数は少ないようじゃ。
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