(ライター:hashidate amano)
「公的年金だけでは老後の生活が厳しいから、年金を受給しながら働こう」というのは、今時珍しいことではありません。
今後も、高齢者が働くケースは増加していくと思います。
ただ、会社で働くような場合で、社会保険に加入することができる場合は、老後の年金額と給料の額を合わせた額が多くなると、年金額が一部(または全部)停止になることがあります。
これを「在職老齢年金制度」と言います。
この記事では、その「在職老齢年金」について解説します。
「頑張って働いたのに年金が減ってしまった……」なんてことがないように、この記事を参考にして働き方を考えていただければと思います。
老後に働いてしまうと不安?
・年金博士
あと残り5388日か……。待ち遠しいのう。
それって、確か年金の受給開始までの日数ですよね。どんだけ待ちわびてるんですか。
・年金博士
ただ,一つだけ心配なことがあるんじゃ。もしも,厚生年金を受給し始めた後まで働き続けていたとしたら,受け取れる厚生年金の額が減額されてしまう場合があるんじゃ。
働きながら年金をもらうと、そんなに減っちゃうもんなんですか?
・年金博士
それでは今回は、その辺りについて説明するとしよう。ああ、心配じゃ……。
(5300日後のことがそんなに心配なものなんだろうか?)
働きながら老後の年金を受給する「在職老齢年金制度」
年金+給料で47万円を超えると停止がある
仕事先で社会保険に加入しながら厚生年金を受給する場合(※)、「在職老齢年金」という仕組みが適用されて、年金の受給が停止(全部または一部)になることがあります。
※ 75歳以上等の後期高齢者で、実際には社会保険の健康保険に加入していないが、加入要件に該当する場合も含む
なお、個人事業などで社会保険の条件に該当しない場合は、たとえ収入が高くても関係ありません。
また、停止されるのはあくまで厚生年金の部分だけで、老後の国民年金(老齢基礎年金)は停止になりません。
停止額は、以下の通りとなります。
(1) 基本月額(=1ヶ月の厚生年金額)+給与額(※)が47万円以下の場合 → 支給停止なし
(2) 上記の額が47万円を超える場合 → 超えた額の1/2の額を停止
※ 給与額は月給の額+年間ボーナスの1/12の額(総報酬月額)
給料額がかなり多いと、老齢厚生年金の全額停止もあり得る
年金の月額が20万円で給与がボーナス込みで月額25万円、くらいの額だと停止にはならないということですね。
逆に給与が非常に多く、例えば年金の月額が20万円で給与が64万円、ということになってくると、
(20万円+67万円-47万円)÷2=20万円(年金停止額)
となって、停止額が年金額を越えてしまうことになります。
ただし、国民年金部分は停止になりません。年金額20万円のうち、厚生年金が14万円で国民年金が6万円だとすると、停止になるのは14万円だけです。
2022年4月に制度が改正されるまでは、65歳未満で老齢厚生年金を受給している人の場合は、年金と給与額を合わせて28万円以上なら年金が停止される「低在老」という仕組みがありました。 この改正で、65歳未満の年金受給者も非常に働きやすくなったと言えます。
・年金博士
基本的な考え方は、働いて収入がある人については、年金は停止してしまえ、ということなんじゃが、それだと「働いたら負け」ということになる。 そこで、給与と年金を合わせた額が、一定の基準を超えた場合だけ停止しようということになったわけじゃ。
月額47万円って、結構な高額ですよね。僕の給料くらいじゃ全然届きませんよ。
・年金博士
もしも65歳を超えてからそんな高給取りになってしまったらどうしようか……。心配じゃ……。
(多分大丈夫だと思う)
(おまけ)雇用保険と在職老齢年金額との調整(65歳未満)
ますます複雑な話なので、こちらはおまけでの解説としておきますが、65歳未満で老齢厚生年金を受給して、さらに雇用保険(失業保険)の支給を受ける場合、年金額が停止される制度があります。
失業中で雇用保険からの失業手当(基本手当)を受けている場合は、一か月の間に1日でも基本手当を受けると、その月の分の厚生年金は丸々全額停止となります。
(ハローワークで手続きはしたが、実際には基本手当を全く受給しなかった月の分については厚生年金の支給停止は行われないが、調整の確認に時間がかかるので、年金の支給は通常の3か月遅れとなる)
ただ、これではさすがに支給停止額があまりに大きくなってしまうことがあるので(各月に数日ずつだけ基本手当をもらったようなケースでも、数か月分の年金がもらえなくなってしまう)、「事後精算」という制度が設けられています。
実際に基本手当を受給した日数を月換算し(日数÷30)、年金の支給が停止されていた月数から基本手当の受給月数を差し引いた月数分の年金が、復活支給されることになっています。
また、雇用保険の制度に、「高年齢雇用継続給付制度」というものがあります。
60歳から65歳の間の雇用保険加入者に、最大で賃金の15%が支給される(60歳時点の75%未満に賃金が下がった場合)という制度ですが、この支給を受ける場合、在職老齢年金制度による停止に加えて、さらに標準報酬月額(こちらはボーナスを含まない額)の最大6%が停止されます。
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK38.pdf
(日本年金機構のパンフレット)
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